声明・参考資料



2019/7/25 <声明(第1回目)>  韓国は「敵」なのか


 はじめに 

 私たちは、7月初め、日本政府が表明した、韓国に対する輸出規制に反対し、即時撤回を求めるものです。半導体製造が韓国経済にとってもつ重要な意義を思えば、この措置が韓国経済に致命的な打撃をあたえかねない、敵対的な行為であることは明らかです。

 日本政府の措置が出された当初は、昨年の「徴用工」判決とその後の韓国政府の対応に対する報復であると受けとめられましたが、自由貿易の原則に反するとの批判が高まると、日本政府は安全保障上の信頼性が失われたためにとられた措置であると説明しはじめました。これに対して文在寅大統領は7月15日に、「南北関係の発展と朝鮮半島の平和のために力を尽くす韓国政府に対する重大な挑戦だ」とはげしく反論するにいたりました。

 

1、韓国は「敵」なのか

 国と国のあいだには衝突もおこるし、不利益措置がとられることがあります。しかし、相手国のとった措置が気にいらないからといって、対抗措置をとれば、相手を刺激して、逆効果になる場合があります。

 特別な歴史的過去をもつ日本と韓国の場合は、対立するにしても、特別慎重な配慮が必要になります。それは、かつて日本がこの国を侵略し、植民地支配をした歴史があるからです。日本の圧力に「屈した」と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます。日本の報復が韓国の報復を招けば、その連鎖反応の結果は、泥沼です。両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります。このような事態に陥ることは、絶対に避けなければなりません。

 すでに多くの指摘があるように、このたびの措置自身、日本が多大な恩恵を受けてきた自由貿易の原則に反するものですし、日本経済にも大きなマイナスになるものです。しかも来年は「東京オリンピック・パラリンピック」の年です。普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか。

 今回の措置で、両国関係はこじれるだけで、日本にとって得るものはまったくないという結果に終わるでしょう。問題の解決には、感情的でなく、冷静で合理的な対話以外にありえないのです。

 思い出されるのは、安倍晋三総理が、本年初めの国会での施政方針演説で、中国、ロシアとの関係改善について述べ、北朝鮮についてさえ「相互不信の殻を破り」、「私自身が金正恩委員長と直接向き合い」、「あらゆるチャンスを逃すことなく」、交渉をしたいと述べた一方で、日韓関係については一言もふれなかったことです。まるで韓国を「相手にせず」という姿勢を誇示したようにみえました。そして、六月末の大阪でのG20の会議のさいには、出席した各国首脳と個別にも会談したのに、韓国の文在寅大統領だけは完全に無視し、立ち話さえもしなかったのです。その上でのこのたびの措置なのです。

 これでは、まるで韓国を「敵」のように扱う措置になっていますが、とんでもない誤りです。韓国は、自由と民主主義を基調とし、東アジアの平和と繁栄をともに築いていく大切な隣人です。

 

2、日韓は未来志向のパートナー

 1998年10月、金大中韓国大統領が来日しました。金大中大統領は、日本の国会で演説し、戦後の日本は議会制民主主義のもと、経済成長を遂げ、アジアへの援助国となると同時に、平和主義を守ってきた、と評価しました。そして日本国民には過去を直視し、歴史をおそれる勇気を、また韓国国民には、戦後大きく変わった日本の姿を評価し、ともに未来に向けて歩もうと呼びかけたのです。日本の国会議員たちも、大きく拍手してこの呼びかけに答えました。軍事政権に何度も殺されそうになった金大中氏を、戦後民主主義の中で育った日本の政治家や市民たちが支援し、救ったということもありました。また日本の多くの人々も、金大中氏が軍事政権の弾圧の中で信念を守り、民主主義のために戦ったことを知っていました。この相互の敬意が、小渕恵三首相と金大中大統領の「日韓パートナーシップ宣言」の基礎となったのです。

 金大中大統領は、なお韓国の国民には日本に対する疑念と不信が強いけれど、日本が戦前の歴史を直視し、また戦後の憲法と民主主義を守って進むならば、ともに未来に向かうことは出来るだろうと大いなる希望を述べたのでした。そして、それまで韓国で禁じられていた日本の大衆文化の開放に踏み切ったのです。

 

 3、日韓条約、請求権協定で問題は解決していない

 元徴用工問題について、安倍政権は国際法、国際約束に違反していると繰り返し、述べています。それは1965年に締結された「日韓基本条約」とそれに基づいた「日韓請求権協定」のことを指しています。

 日韓基本条約の第2条は、1910年の韓国併合条約の無効を宣言していますが、韓国と日本ではこの第2条の解釈が対立したままです。というのは、韓国側の解釈では、併合条約は本来無効であり、日本の植民地支配は韓国の同意に基づくものでなく、韓国民に強制されたものであったとなりますが、日本側の解釈では、併合条約は1948年の大韓民国の建国時までは有効であり、両国の合意により日本は韓国を併合したので、植民地支配に対する反省も、謝罪もおこなうつもりがない、ということになっているのです。

 しかし、それから半世紀以上が経ち、日本政府も国民も、変わっていきました。植民地支配が韓国人に損害と苦痛をあたえたことを認め、それは謝罪し、反省すべきことだというのが、大方の日本国民の共通認識になりました。1995年の村山富市首相談話の歴史認識は、1998年の「日韓パートナーシップ宣言」、そして2002年の「日朝平壌宣言」の基礎になっています。この認識を基礎にして、2010年、韓国併合100年の菅直人首相談話をもとりいれて、日本政府が韓国と向き合うならば、現れてくる問題を協力して解決していくことができるはずです。

 問題になっている元徴用工たちの訴訟は民事訴訟であり、被告は日本企業です。まずは被告企業が判決に対して、どう対応するかが問われるはずなのに、はじめから日本政府が飛び出してきたことで、事態を混乱させ、国対国の争いになってしまいました。元徴用工問題と同様な中国人強制連行・強制労働問題では1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、2000年花岡(鹿島建設和解)、2009年西松建設和解、2016年三菱マテリアル和解がなされていますが、その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟みませんでした。

 日韓基本条約・日韓請求権協定は両国関係の基礎として、存在していますから、尊重されるべきです。しかし、安倍政権が常套句のように繰り返す「解決済み」では決してないのです。日本政府自身、一貫して個人による補償請求の権利を否定していません。この半世紀の間、サハリンの残留韓国人の帰国支援、被爆した韓国人への支援など、植民地支配に起因する個人の被害に対して、日本政府は、工夫しながら補償に代わる措置も行ってきましたし、安倍政権が朴槿恵政権と2015年末に合意した「日韓慰安婦合意」(この評価は様々であり、また、すでに財団は解散していますが)も、韓国側の財団を通じて、日本政府が被害者個人に国費10億円を差し出した事例に他なりません。一方、韓国も、盧武鉉政権時代、植民地被害者に対し法律を制定して個人への補償を行っています。こうした事例を踏まえるならば、議論し、双方が納得する妥協点を見出すことは可能だと思います。

 現在、仲裁委員会の設置をめぐって「対立」していますが、日韓請求権協定第3条にいう仲裁委員会による解決に最初に着目したのは、2011年8月の「慰安婦問題」に関する韓国憲法裁判所の決定でした。その時は、日本側は仲裁委員会の設置に応じていません。こうした経緯を踏まえて、解決のための誠実な対応が求められています。

 

おわりに

 私たちは、日本政府が韓国に対する輸出規制をただちに撤回し、韓国政府との間で、冷静な対話・議論を開始することを求めるものです。

 いまや1998年の「日韓パートナーシップ宣言」がひらいた日韓の文化交流、市民交流は途方もない規模で展開しています。BTS(防弾少年団)など、K-POPの人気は圧倒的です。テレビの取材にこたえて、「(日本の)女子高生は韓国で生きている」と公然と語っています。300万人が日本から韓国へ旅行して、700万人が韓国から日本を訪問しています。ネトウヨやヘイトスピーチ派がどんなに叫ぼうと、日本と韓国は大切な隣国同士であり、韓国と日本を切り離すことはできないのです。

 安倍首相は、日本国民と韓国国民の仲を裂き、両国民を対立反目させるようなことはやめてください。意見が違えば、手を握ったまま、討論をつづければいいではないですか。

 

 2019年7月25日

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呼びかけ人

 <呼びかけ>(*は世話人) 2019年7月29日 現在78名 

 青木有加(弁護士)

 秋林こずえ(同志社大学教授)

 浅井基文(元外務省職員)

 阿部浩己(明治学院大学教授)

 庵逧由香(立命館大学教授)

 石川亮太(立命館大学教員) 

 石坂浩一(立教大学教員)*

 岩崎稔(東京外国語大学教授)

 殷勇基(弁護士)

 内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)*

 内田雅敏(弁護士)*

 内橋克人(評論家)

 梅林宏道(ピースデポ特別顧問)

 大沢真理(元東京大学教授)

 太田修(同志社大学教授)

 大森典子(弁護士)

 岡田充(共同通信客員論説委員)*

 岡本厚(元「世界」編集長)*

 岡野八代(同志社大学教員)

 荻野富士夫(小樽商科大学名誉教授)

 小田川興(元朝日新聞ソウル支局長)

 大貫康雄(元NHKヨーロッパ総局長)

 勝守真(元秋田大学教員)

 勝村誠 (立命館大学教授)

 桂島宣弘(立命館大学名誉教授)

 金子勝(慶応大学名誉教授)

 我部政明(琉球大学教授)

 鎌田慧(作家)

 香山リカ(精神科医)

 川上詩朗(弁護士)

 川崎哲(ピースボート共同代表)

 小林久公(強制動員真相究明ネットワーク事務局次長)

 小林知子(福岡教育大学教員)

 小森陽一(東京大学名誉教授)

 在間秀和(弁護士)

 佐川亜紀(詩人)

 佐藤学(学習院大学特任教授)

 佐藤学(沖縄国際大学教授)

 佐藤久(翻訳家)

 佐野通夫(こども教育宝仙大学教員)

 島袋純(琉球大学教授)

 宋 基燦(立命館大学准教授)

 高田健(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会共同代表)

 髙村竜平(秋田大学教育文化学部)

 高橋哲哉(東京大学教授)

 田島泰彦(早稲田大学非常勤講師、元上智大学教授)

 田中宏(一橋大学名誉教授)*

 高嶺朝一(琉球新報元社長)

 谷口誠(元国連大使)

 外村大(東京大学教授)

 中島岳志(東京工業大学教授)

 永田浩三(武蔵大学教授)

 中野晃一(上智大学教授)

 成田龍一(日本女子大学教授)

 西谷修(哲学者)

 波佐場清(立命館大学コリア研究センター上席研究員)

 花房恵美子(関釜裁判支援の会)

 花房俊雄(関釜裁判支援の会元事務局長)

 羽場久美子(青山学院大学教授)

 平野伸人(平和活動支援センター所長)  

 広渡清吾(東京大学名誉教授)

 飛田雄一(神戸学生青年センター館長)

 藤石貴代(新潟大学)

 古川美佳(朝鮮美術文化研究者)

 星川淳(作家・翻訳家)

 星野英一(琉球大学名誉教授)

 布袋敏博(早稲田大学教授・朝鮮文学研究)

 前田哲男(評論家) 

 三浦まり(上智大学教授)

 三島憲一(大阪大学名誉教授)

 美根慶樹(元日朝国交正常化交渉日本政府代表)

 宮内勝典(作家)

 矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)

 山口二郎(法政大学教授)  

 山田貴夫(フェリス女学院大学・法政大学非常勤講師、ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク事務局)

 山本晴太(弁護士)

 和田春樹(東京大学名誉教授)*

  

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この声明にも呼応する形で、韓国の各界の人たちからも声明が出されています。「韓国側の声明など」のページをご覧ください。

 


2020/1/6 問題解決に向け、民間レベルで日韓共同の協議体を創設することを提案

●呼びかけ全文(2020/1/6)

強制動員問題の真の解決に向けた協議を呼びかけます。

1 現在、強制動員問題に関して、韓国国会議長が提案した法案などさまざまな解決構想が報じられています。日韓請求権協定によっても個人賠償請求権は消滅しておらず、未解決とされている強制動員問題の解決構想が検討されることは望ましいことです。しかし、報じられている解決構想の多くが真の解決になり得るのか疑問です。

  

2 まず確認しておきたいことは、強制動員問題には、労務強制動員問題(いわゆる徴用工問題)の他に、軍人・軍属として強制動員された被害者の権利救済の問題(軍人・軍属問題)も含まれるということです。

強制動員問題全体を最終的に解決するためには,軍人・軍属問題も含めて解決構想が検討されなければなりません。したがって、総合的な問題解決案とともに現実的な条件を考慮した段階的解決策を検討すべきです。

 

3 労務強制動員問題の解決についてですが,労務強制動員問題の本質は,被害者個人の人権問題です。したがって,いかなる国家間合意も、被害者が受け入れられるものでなければなりません。また、国際社会の人権保障水準に即したものでなければ真の解決とはいえません(被害者中心アプローチ)。

被害者が受け入れられるようにするためには,労務強制動員問題の解決構想の検討過程に被害者の代理人などが主体のひとつとして参加するなど、被害者の意向が反映できる機会が保障されなければなりません。

また,強制連行・強制労働は重大な人権侵害として違法であり,その被害者に対しては、原状回復や賠償など効果的な救済がなされなければならないと国際社会は求めています。

 

4 それでは何をもって労務強制動員問題の真の解決といえるのでしょうか。

(1) 真の解決といえるためには、1: 加害者が事実を認めて謝罪すること、2: 謝罪の証として賠償すること、3: 事実と教訓が次の世代に継承されるということが充たされなければなりません。

(2) このような事項は、日本と韓国における長年にわたる訴訟活動などを通じて被害者及び支援者らが求めてきたものです。ドイツにおける強制連行・強制労働問題を解決した「記憶・責任・未来」基金や、中国人強制連行・強制労働問題の解決例である花岡基金,西松基金及び三菱マテリアル基金においても、基本的に踏まえられているものです。

特に、労務強制動員問題の本質が人権問題である以上、問題解決の出発点に置かれるべきは、人権侵害事実の認定です。人権侵害の事実が認められることで,初めて被害者の救済の必要性が導かれるからです。

(3) この点、注目すべきは,韓国大法院判決の原告らが韓国での裁判の前に日本で提訴した裁判における日本の裁判所の判断とそれに対する評価です。日本の裁判所は結論としては原告を敗訴させましたが、原告らの被害が強制連行や強制労働に該当し違法であると認めています。

この日韓両国の裁判所がともに認定した人権侵害の事実を、日本政府や日本企業が認めて謝罪をすることが,この問題解決の出発点に位置づけられなければなりません。

 

5 真の解決を実現するために,誰が,何をすべきなのでしょうか。

(1) 労務強制動員被害者らは,国家総動員体制の下,日本政府が政策として企画した労務動員計画(1939年~1945年)に基づき動員され,日本の加害企業が連行に関与し,炭鉱や工場などで働かされました。したがって,労務強制動員問題に対して第一次的法的責任を負うのは日本国及び日本の加害企業であるといえます。

労務強制動員問題の解決の出発点は,人権侵害の事実を認めることですが,それは日本政府及び日本企業しかできないことであり,そのことが日本国及び日本の加害企業の果たすべき重要な役割といえます。

さらに、今日、国際連合は、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」や「グローバル・コンパクト」という取り組みを通じて、人権分野においても企業が責任あるリーダーシップを発揮することを期待しています。韓国大法院確定判決の被告企業である日本製鉄や三菱重工にもその役割を果たす責任があるといえます。これらの加害企業が現在及び将来において人権分野で責任あるリーダーシップを発揮するためには,過去自ら行った人権侵害の事実に誠実に向き合い,その問題を解決することは不可欠であるといえます。

(2) 韓国政府は、日韓請求権協定において強制動員問題をまともに解決できず,その後も被害者の権利救済をなおざりにしてきた道義的責任があります。強制動員被害者問題を全体的に解決するためには,韓国政府も自らの責任と役割を果たすべきです。

(3) 韓国の企業の中には、日韓請求権協定第1条に基づく「経済協力」により企業の基盤が形成されその後発展してきた企業(受恵企業)があります。受恵企業が過去の歴史に誠実に向き合い、歴史的責任を自覚し,自発的にこの問題の解決に関与することは解決のための正しい態度であるといえます。

(4) 以上のとおり,労務強制動員問題を始めとする強制動員問題について日韓両国政府、日本の加害企業及び韓国の受恵企業は、この問題解決のために果すべき責任と役割があります。

 

6 真の解決を実現することは可能でしょうか。

解決の可能性を検討するにあたり参考になるのは,中国人強制連行・強制労働問題の解決例である花岡基金,西松基金及び三菱マテリアル基金による解決についてです。

ここでは、被害者と加害企業との「和解」により、加害企業が自らの加害と被害の事実と責任を認め、その証として資金を拠出して基金を創設しました。そして、その基金事業として、被害者への補償と慰霊碑の建立、慰霊行事通じて記憶・追悼事業を行い,また行おうとしています。

この事業に日本政府や中国政府は直接には関与していません。加害事実を認めたのも,残念ながら日本の加害企業のみであり、日本政府は認めてはいません。それは今後の課題として残されています。しかし、このような「和解」を通じて日中両国の被害者、支援者、日本企業などの間で相互理解と信頼が育まれてきています。

日本の最高裁判所は、中国人強制連行・強制労働事件に関する判決の付言の中で被害者を救済すべき必要性を指摘しました。また,日中共同声明により裁判上訴求する権能は失われたが、個人賠償請求権は消滅していないとの解釈を示すことで、加害企業が被害者に任意かつ自発的に補償金を支払うことが法的に許されることを示しました。

韓国人労務強制動員問題についても、日本の裁判所も人権侵害の事実を認めており、救済の必要性が認められるといえます。そして、日韓請求権協定第2条において「請求権の問題」が「完全かつ最終的に解決した」ということの意味については,国家の外交的保護権を解決したのであり,個人賠償請求権は消滅していないというのが日本政府や日本の最高裁判所の判断です。

加害企業は任意かつ自発的に補償金を支払うなどの責任ある行動をすべきですし,日本の政府や裁判所の見解に照らしても,日韓請求権協定は,労務強制動員問題を解決するにあたり法的障害にはならないといえます。

したがって,少なくとも日本政府が事実に真摯に向き合い,日本の司法府の判断を尊重して問題解決に努力する姿勢を示し,日本の加害企業が解決しようとすることを日本政府が妨害しなければ,解決することは十分に可能といえます。

 

7 私たちは,労務強制動員問題の真の解決のためには,これまで述べてきたことを踏まえて,関係者間での協議が行われることが望ましいと考えています。

そのために,日韓両国間で,強制動員問題全体の解決構想を検討するための共同の協議体を創設することを提案します。

この協議体は,強制動員被害者の代理人弁護士や支援者,日韓両国の弁護士・学者・経済界関係者・政界関係者などから構成され,強制動員問題全体の解決構想を一定の期間内に提案することを目的とします。日韓両国政府は,この協議体の活動を支援し協議案を尊重しなければなりません。

私たちは,このような努力が日韓間の厳しい対立を解消するためのひとつの方法であり強制動員問題の解決に向けた途であると考え、日韓共同の協議体の創設を強く強く呼びかけます。

2020年1月6日

 

強制動員問題の正しい解決を望む韓日関係者一同

(韓国)

○強制動員被害者訴訟代理人

弁護士 金   世 恩

弁護士 金   正 熙

弁護士 李   尚 甲

弁護士 林   宰 成

弁護士 崔   鳳 泰

弁護士 クォン・ソヨン

弁護士 キム・ミナ

弁護士 キム・サンフン

弁護士 キム・ソンジュ

弁護士 キム・スジ

弁護士 キム・ジョンホ

弁護士 リュ・リ

弁護士 パク・インドン

弁護士 パク・インスク

弁護士 ソ・ボゴン

弁護士 ソ・ビョンソン

弁護士 ソン・ウチョル

弁護士 イ・グァンウォン

弁護士 イ・ドンジュン

弁護士 イ・サンヒ

弁護士 イ・ソンスク

弁護士 イ・ソア

弁護士 イ・ヨンウ

弁護士 イ・チェヨル

弁護士 イ・ヒョンジュン

弁護士 チャン・ウンベク

弁護士 チャン・ヒョイン

弁護士 チョン・ミンギュ

弁護士 チョン・ボムジン

弁護士 チョン・ダウン

弁護士 チョン・インギ

弁護士 チェ・モク

弁護士 チェ・ヨングン

弁護士 チェ・ジョンヒ

○強制動員被害者訴訟支援団

・勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会

・民族問題研究所

・太平洋戦争被害者補償推進協議会

(日本)

弁護士 青 木 有 加

弁護士 足 立 修 一

弁護士 岩 月 浩 二

弁護士 内 田 雅 敏

弁護士 大 森 典 子

弁護士 川 上 詩 朗

弁護士 在 間 秀 和

弁護士 崔  信 義

弁護士 張 界 満

弁護士 戸 塚 悦 朗

弁護士 宮 下 萌

弁護士 山 本 晴 太

・名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会

・韓国の原爆被害者を救援する市民の会長崎

・朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動

・広島の強制連行を調査する会

・日本製鉄元徴用工裁判を支援する会

・過去と現在を考えるネットワーク北海道

・川崎から日本軍『慰安婦』問題解決を求める市民の会

 

 

 



2019年10月25日 内田雅敏

1965年体制の現実的な克服方法については、これから知恵を出し合い、運動が必要ですが、世話人の一人、内田雅敏弁護士の見解を紹介致します。

1965年 日韓基本条約・請求権協定の修正、補完は不可避である

 1. 「日朝平壌宣言」と比較するとよく分かる

1965年の日韓基本条約・請求権協定が植民地支配の清算を欠いた不十分なものであり、その修正・補完が不可避なことは、65年の日韓基本条約・請求権協定と、小泉内閣の時代に北朝鮮との間でなされた2002年の「日朝平壌宣言」とを比較してみるとよくわかります。

 

1)1965年の「日韓基本条約・請求権協定」では、植民地支配に対する謝罪も反省も無かった。

日韓基本条約・請求権協定では、

「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」(日韓基本条約第2条)

とされ、植民地支配が合法・有効であったか、それとも違法・無効であったかは曖昧にされ、「もはや無効である」という無効になった時期を明示しない玉虫色の解決がなされて、植民地支配に対する謝罪も反省もありませんでした。

 

2)しかしその後の2002年「日朝平壌宣言」では、植民地支配に対する反省と謝罪がしっかりと述べられている。

「日朝平壌宣言」では、村山首相談話(戦後50年の節目である1995年8月15日に際し発され、植民地支配について謝罪した)及びこれを踏襲した日韓共同宣言(1998年、金大中大統領・小淵首相) をよく理解し、

「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の苦痛と損害を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」

と、植民地支配に対する反省と謝罪がしっかりと述べられています。

[参考]1998年の日韓共同宣言(金大中大統領・小淵首相)

「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。
 金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した。」(日韓共同宣言 引用終わり)

 

 

2. 1990年の自民党、社会党、朝鮮労働党による三党共同宣言においても「謝罪し、十分に償うべきであると認める」としている。

村山首相談話に先立つこと5年、1990年9月28日、平壌に於いて、自由民主党代表金丸信、社会党代表田辺誠副委員の両氏を団長とする日本の与野党と、朝鮮労働党の間で、発せられた三党共同宣言第1項は以下のように述べています。

 「三党は、過去に日本が36年間に朝鮮人民に大きな不幸と災難を及ぼした事実と戦後45年間に朝鮮人民にこうむらせた損失について朝鮮民主主義人民共和国に対し、公式的に謝罪し、十分に償うべきであると認める。」

 そして、この三党共同宣言に対して、当時の与野党、すなわち、自民党、社会党、公明党、共産党、民社党のすべてが、歓迎の談話を発しました(1990年9月29日朝日新聞)。

 

 

3.「解決済み」論は通用しない幾つかの事実経過

1)北朝鮮との間では、植民地支配の問題は未解決と認めている

韓国との間ではこの問題は「解決済み」であるとする日本政府も、北朝鮮との間では、まだこの問題が未解決で残されていることを認識しています。その解決に際しては、当然、植民地支配について反省と謝罪を述べた「日朝平壌宣言」が出発点となることになり、植民地支配の清算が不可欠となるでしょう。

となれば、植民地支配の清算に言及しなかった1965年の日韓基本条約・請求権協定の見直しが不可欠となり、日本政府がいま述べている「解決済み論」は通用しなくなるのではないでしょうか。

 

2)韓国併合100年に際し発せられた菅直人首相談話でも、植民地支配に対し、痛切な反省と心からのお詫びを表明。

2010年、韓国併合100年に際し発せられた菅直人首相談話

「本年は、日韓関係にとって大きな節目の年です。ちょうど百年前の八月、日韓併合条約が締結され、以後三十六年に及ぶ植民地支配が始まりました。三・一独立運動などの激しい抵抗にも示されたとおり、政治的・軍事的背景の下、当時の韓国の人々は、その意に反して行われた植民地支配によって、国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられました。

私は、歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います。痛みを与えた側は忘れやすく、与えられた側はそれを容易に忘れることは出来ないものです。この植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、ここに改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明いたします。」

このように、菅直人首相談話も、三党共同宣言(1990年)、村山首相談話(1995年)、日韓共同宣言(1998年)、平壌宣言(2002年)と続いた流れを踏襲し、植民地支配についての謝罪をしています。これらの経緯を踏まえるならば、もはや65年の日韓基本条約・請求権協定の修正・補完は不可避であることが分かります。

 

 

4. 日韓基本条約・請求権協定の修正・補完は、実質的にはすでに「慰安婦問題」「サハリン残留(放置)韓国人帰還問題」等でなされている。

北朝鮮との間でだけでなく、韓国との間でもすでに請求権協定の実質的な修正・補完がなされているのです。それは『慰安婦』問題です。

1965年の請求権協定当時は、『慰安婦』問題はまったく論じられていませんでした。『慰安婦』問題についての日韓合意は、日本政府自身が65年の日韓請求権協定では議論していなかった問題として協議に応じたものであり、その意味で請求権協定の見直しに応じたものと言えるものではないでしょうか。『慰安婦』問題の外にも、原爆被害を受けた韓国人の治療問題、サハリン残留(放置)韓国人帰還問題等でも、65年請求権協定の見直し、補完がなされています。韓国を「朝鮮にある唯一の合法的な政府」とした日韓基本条約第3条も、1991年に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が国連に加盟したことによって、今日においては「失効」しているのではないでしょうか。

 

 

5. 元徴用工・遺族に対する賠償が既になされている事例がある

 元徴用工問題でも1997年9月に、新日鉄釜石製鉄所で強制労働させられた元徴用工・遺族11人が原告となって、新日鉄を相手に未払い賃金の支払いを求めた裁判で、原告に各200万円を支払うという和解が成立しています。

この裁判では国も被告としていましたが、途中で分離しています。

新日鉄は、裁判では、戦前の会社とは別法人だと主張しましたが、和解に応じたのです。他にも、1999年4月 日本鋼管 韓国の元徴用工1人に解決金410万円の支給、2000年7月 不二越 韓国の元女子勤労挺身隊員ら8人と一団体に解決金3000万円余と会社構内に記念碑の建立と云う形で解決が図られました。

 

これらの和解は、原告とだけの和解で、花岡事件(鹿島建設)和解のように全体解決を図ったものではなく、また、企業が責任を認め、謝罪をしたものではありません。しかし、強制連行・強制労働賠償請求事件の「和解前史」として位置づけられるべきであり、また65年請求権協定の見直し、補完が行われているとも言えると思います。

 

2019年10月25日 内田雅敏